王の、実子ともあろう者が。
擦り切れ、埃にまみれた襤褸を纏い、怯えたように自分を連れてきた大人に隠れ。
前に出ることを拒み。
その行為にさえも怯え。
しかし他にできないのだろう。
ついには涙を瞳いっぱいに溜め。
絶対に零すまいと目を見開いている。
兄は痛ましげに目を細め、その様を見ている。何も言わないのは更に怯えさせない為だろう。
子供にも、否、子供だからこそ、この場で最も力持つものを感じ取る。
ならば、自分が動こう。
す、と一定の距離を保ちつつも歩み寄り、膝を折って目線を合わせる。
「…怖いか?」
ふるふると頭を振り、じ、と見つめてくる。
兄も、何も言わない。
言葉を続ける。
「…こちらに、おいで。お前を嫌ったり、疎んだり、しないから。」
目が零れ落ちんばかりに見開き、大きくその細く薄い肩を震わせる。
兄も穏やかな声音で繰り返す。
「大丈夫だよ、誰も咎めはしない。こちらに、おいで。」
「…に……て……?」
おずおずと、隠れたまま、何事か尋ねる。
今度は、瞳いっぱいに不安と涙を湛えて。
「…兄上。」
「…?」
ふ、と笑って兄を呼ぶ。
首を傾げた兄が、隣まで下りてくる。
「もう一度、言ってご覧。」
下を向いて、必死にもう一度言おうとする。
「…きに…」
数度口の中で呟き、おずおずと顔を上げ、先程より幾分大きい声で、先程より幾分声を震わせて。
「…好きに、なって、くれる?」
兄は一度目を瞬かせ、一度こちらを見て、破顔した。
口を開いたのは、二人同時だった。
「「勿論。」」
その言葉を聞くと、子供は掴んでいた大人の裾を離し、ぼろぼろと溜めていた涙を流し、声を上げて泣き始めた。
不器用だけど、それが始まり。
***
ヤル君のお友達のお話。
ヤル君は若干西よりの南国の王様。
お友達は東国の隻腕の左利き皇子様。
彼らも色々。
記事書ける状態じゃないみたいです。
あ、落ち込んでる…って言えばそうなんだけど大丈夫な感じなのでご心配なく。
もう一度サヨナラして、また会うところから始めましょう。
メモっていうか下書きっていうか書きたいところだけっていうか。
拙宅の国王陛下のシリアス。確実に私以外の人は(゜ω゜)だと思います。
彼の言葉だった。
「知っていても、どうにもできん事もあるからなぁ。それこそ王にも、神にも。」
そう言って笑った、彼の。
「……………王よ」
常とはまるで別な声音で男が呼びかけた。
直視に堪えず逸らしていた視線を向ければ、強い眼光に捉えられた。
「眼を逸らすことを覚えるな…」
幾度も説かれた教え。
「情に流され、見誤るな…」
幼い頃から説かれた教え。
父の様に慕った男の、同じ言葉が、かつてない程に響く。
自分にしか聞こえない声量で語りかけられるも、第三者の眼がある手前、応じるに応じられないもどかしさに歯噛みする。
「良き主君となれ……」
「――国を売ったアストの僕よ」
背徳と惰性の神の名で男の言葉を遮る。
声が震えぬ様、自身を叱咤し、言葉を繋ぐ。
「その身命を以て国と絶対神に贖うが良い。」
その意味は、事実上の死刑宣告。
告げられた男は、一度俯き、顔を上げた。
「―――有難き幸せ」
「………!」
男の顔は、晴れやかな笑顔だった。
「売国奴めが…しゃあしゃあと」
「笑ってやがる…恥知らず」
さわさわと漣の様に声が広がっていく。
王はふらりと立ち上がり、王座を降り、何をするでもなく男の前に立った。
漣は戸惑いの波になり、更に広がった。
ざわめきに紛れ、男が再び口を開いた。
「…揺らぐな、王よ」
「…所詮、お飾り王家だ。
臣下一人、救えない……!」
吐き捨てる王に、男は宥める様に笑みを浮かべた。
「勘違いをするな、全て私の意思だった。」
「支配者共の犬の振りをして、奴らの筋書き通り死ぬことがか…!」
「国で死ぬことが叶うとは思っていなかったよ。」
口を開こうとすると、肩を掴まれた。
「失礼ながら、王よ。…どうか王座にお戻り下さい…。…王の決定は下った!罪人を連れて行け!」
側近が告げ、ざわめいていた周囲が動き出す。
「…アンタは誰より強くて、優しくて、正しかった。父より父らしかった。ずっと俺の自慢なんだ、師範。」
「此処は、良い国だ。良い王が居る。
…私の自慢だよ、一番弟子。」
2人は互いに背を向け、もう何も、言わなかった。
僕は落ちる空を見る
そして手を伸ばす君に手を伸ばす
絶対に届かない距離になってから
絶対安全高度は侵さない
灰色にけぶった街など視界には入る余地を与えない
ああでも
最後に聞いておきたかったかもしれない
僕の名前を呼ぶ君の声
せめて声は届けばいいのだけど
お休み、もういいんだよ。
誰より言って欲しかったのは僕かもしれない言の葉よ、どうか届いて。